マスターズアスリートの期分け|年齢を重ねても強くなれる、中高年のトレーニング設計

マスターズアスリートの期分け|年齢を重ねても強くなれる、中高年のトレーニング設計

40代、50代、60代——年齢を重ねてもなお競技に打ち込むマスターズアスリートが増えている。マラソン、トライアスロン、自転車、競泳、ウエイトリフティング。生涯スポーツとして競技に向き合う人は年々増加している。

一方で、こんな声もよく聞く。

「若い頃と同じトレーニングをすると、すぐ怪我をする」 「疲れが抜けにくくなった」 「やってもなかなか伸びない」

これらは、加齢に伴う生理的な変化を考慮せず、若い頃と同じトレーニング・同じ期分けを続けていることが原因であることが多い。

結論から言えば、適切に設計すれば、中高年でも筋力・パワーは向上する。ただし、若い頃とは異なる「マスターズ向けの期分け」が必要だ。

この記事では、加齢に伴う変化を整理し、マスターズアスリートのためのトレーニングと期分けの考え方を解説する。なお、僕は医師ではないので、持病や健康上の懸念がある場合は必ず医療専門家に相談したうえで取り組んでほしい。

加齢に伴う主な変化

まず、何が変わるのかを正確に理解することが、対策の出発点だ。

①筋量・筋力の低下(サルコペニア)

加齢に伴い、筋量と筋力は徐々に低下する。特に30代後半から進行し、何もしなければ10年あたり数%の筋量が失われるとされる。

特に速筋繊維(タイプII:パワーを生む繊維)が優先的に失われやすい。これが、加齢に伴ってパワーやスピードが筋力以上に低下する理由だ。

ただし重要なのは、この低下はトレーニングによって大きく遅らせる・取り戻すことができるということ。「年だから仕方ない」ではなく、「年だからこそトレーニングが必要」だ。

②回復力の低下

加齢に伴い、トレーニングからの回復に時間がかかるようになる。ホルモン環境の変化、組織修復の遅延などが背景にある。

若い頃は中1日で回復できたセッションが、中2日必要になる。これは「衰え」というより「回復の前提が変わった」と捉え、トレーニング設計に反映すべき事実だ。

③腱・関節・結合組織の変化

腱や靭帯、関節軟骨は加齢とともに弾力性が低下し、損傷しやすく、回復も遅くなる。若い頃は無理が利いた高強度・高衝撃のトレーニングが、怪我につながりやすくなる。

④骨密度の低下

特に閉経後の女性では骨密度の低下が顕著だが、男性も加齢に伴い骨密度は低下する。適切な負荷をかける筋力トレーニングは、骨密度の維持・向上に有効だ。

マスターズアスリートのトレーニング原則

これらの変化を踏まえた、マスターズ向けのトレーニング原則を整理する。

原則①:筋力トレーニングは「やめない」

加齢による最大の問題は筋量・筋力(特に速筋)の低下だ。これに対抗する最も有効な手段が筋力トレーニングだ。

マスターズアスリートこそ、筋力トレーニングを継続すべきだ。持久系競技の選手であっても、筋力トレーニングは怪我予防とパフォーマンス維持の両面で価値がある。「走り込みだけ」「泳ぎ込みだけ」では、加齢に伴う筋力低下に対抗できない。

原則②:パワー・速筋を刺激する

速筋が優先的に失われるなら、意図的に速筋を刺激するトレーニングが重要になる。

ただし、若い頃のような全力のジャンプやスプリントは関節・腱への負担が大きい。中程度の負荷を「速く動かす」パワートレーニング(過去の記事で書いた30〜60%1RMを最大速度で)を、関節に配慮しながら取り入れる。VBTで速度を管理するのも有効だ。

原則③:回復を手厚くする

回復に時間がかかるなら、それを前提に計画を組む。

トレーニング頻度を若い頃より落とす(同じ筋群を週2回など)、セッション間の回復日を増やす、ディローディングの頻度を上げる(3週ごとではなく2週ごとなど)。「もっとできる」と感じても、回復を優先する判断が、長期的には伸びにつながる。

睡眠・栄養といった回復の土台(過去記事参照)は、若い頃以上に重要になる。

原則④:ウォームアップを丁寧に

腱・関節が硬くなり損傷しやすくなる以上、ウォームアップの重要性が増す。RAMPプロトコル(過去記事参照)を、若い頃より時間をかけて丁寧に行う。特にRaise(体温上昇)とMobilise(可動性)に時間を割く。

原則⑤:強度より「継続」を重視する

若い頃は無理をしても回復できたが、マスターズでは無理が怪我に直結する。怪我で数ヶ月離脱するより、強度を1割抑えて休まず継続するほうが、長期的なパフォーマンスははるかに高くなる。

「攻めすぎない勇気」が、マスターズアスリートには求められる。

マスターズの期分けの考え方

これらの原則を、ピリオダイゼーションに落とし込む。

①年間の山を減らす・なだらかにする

若い頃は年に複数回のピークを作れたかもしれないが、回復力が落ちたマスターズでは、ピークの数を絞り、最も重要な大会に集中する。年間を通じて無理なく維持できる設計を優先する。

②ディローディングを多めに、深めに

ローディングとディローディングの比率を、回復に有利な方向に調整する。若い頃が「3週ローディング+1週ディローディング」だったなら、マスターズでは「2週ローディング+1週ディローディング」のように、回復の機会を増やす。

③準備期を長く、立ち上がりをゆっくり

オフ明けや故障明けの立ち上がりは、若い頃よりさらにゆっくりにする。組織が負荷に適応する時間を十分に取る。準備期を長めに確保し、焦らず土台を作る。

④筋力維持を通年で組み込む

シーズン中も筋力トレーニングを完全にやめない。「少なく、でも重く」(試合期の記事参照)の原則は、マスターズでは特に重要だ。筋力トレーニングを抜くと、加齢による筋力低下が一気に進む。

⑤体力テストで「維持できているか」を確認

若い頃は「向上」を測るテストだったが、マスターズでは「維持できているか」「低下を最小限に抑えられているか」を確認する意味合いも持つ。1RMやCMJの定期測定で、トレーニングが効いているかを客観的に把握する。

「年齢」より「個人差」が大きい

最後に強調したいのは、マスターズ世代は暦年齢以上に個人差が大きいということだ。

同じ55歳でも、長年トレーニングを継続してきた人と、久しぶりに運動を再開した人では、身体の状態がまったく違う。トレーニング歴、既往歴、生活習慣、回復力——これらの個人差は、若い世代より大きくなる。

だからこそ、マスターズアスリートのトレーニングは「個別化」が極めて重要だ。一般的な年齢ガイドラインを出発点としつつ、その人個人のコンディション、回復力、反応を見ながら調整していく。

そして何より、マスターズアスリートにとってトレーニングは、競技力だけでなく健康と生活の質(QOL)に直結する。筋力や持久力の維持は、加齢に伴う様々な健康リスクの低減につながる。「競技のため」であると同時に「これからの人生のため」のトレーニングでもある。

年齢を重ねても、適切に設計すれば強くなれる。そのための道具が、マスターズに合わせた期分けだ。

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