セッションRPE(sRPE)で管理するトレーニング負荷|計算方法と現場での活用法

セッションRPE(sRPE)で管理するトレーニング負荷|計算方法と現場での活用法

ピリオダイゼーションを組んで、計画通りにトレーニングを実行した。

でも、「その計画は本当に狙い通りの負荷を選手にかけられていたのか?」と聞かれたら、自信を持って答えられるだろうか。

計画上の強度(%1RM)やボリューム(セット×レップ)は、あくまで「処方した負荷」だ。選手が実際に「受けた負荷」は、その日のコンディション、競技練習の内容、精神的なストレスなど、多くの要因で変動する。

この「選手が実際に受けた負荷」を定量化する方法として、現在最も広く使われているのがセッションRPE(sRPE)法だ。

この記事では、sRPEの計算方法、そこから導き出される指標、そしてピリオダイゼーションの中でどう活用するかを解説する。

セッションRPE(sRPE)とは

セッションRPE法は、Carl Fosterらによって開発されたトレーニング負荷の定量化手法だ。

計算はシンプル。

sRPE(トレーニング負荷)= セッションRPE × セッション時間(分)

セッションRPEとは、トレーニング終了後30分以内に選手に「今日のセッション全体のきつさは?」と聞いて、10段階(もしくはCR-10スケール)で評価してもらう数値だ。

たとえば、60分のS&Cセッションを行い、選手がセッション全体のきつさをRPE 7と評価した場合:

sRPE = 7 × 60 = 420 AU(Arbitrary Units:任意単位)

この数値が「そのセッションで選手が受けた内部負荷」を表す。

sRPEが優れている理由

従来のトレーニング負荷管理(心拍数ベースの方法や、外部負荷のみの計測)と比較して、sRPEには以下の利点がある。

①あらゆるトレーニング形式に適用できる ウエイトトレーニング、有酸素トレーニング、競技練習、試合——すべてのセッションを同じ単位(AU)で比較できる。心拍数ベースの方法はレジスタンストレーニングには向かないが、sRPEなら問題ない。

②特別な機器が不要 GPSデバイスや心拍計がなくても、選手に「きつさ」を聞くだけで計測できる。コストゼロで導入できるのは現場にとって大きい。

③内部負荷を反映する 外部負荷(重量、距離、速度)は同じでも、選手のコンディションによって感じる「きつさ」は変わる。sRPEはこの内部負荷(選手が実際に感じた負荷)を反映するため、オーバートレーニングの予兆を早期に捉えやすい。

sRPEから導き出される3つの指標

sRPEの単一セッションの数値だけでなく、蓄積データから以下の3つの指標を算出することで、負荷管理の精度が大幅に上がる。

① 週間トレーニング負荷(Weekly Training Load)

1週間のすべてのセッションのsRPEを合計した値。

計算例

月曜:S&Cセッション(RPE 8 × 50分)= 400 火曜:競技練習(RPE 6 × 90分)= 540 水曜:S&Cセッション(RPE 7 × 45分)= 315 木曜:競技練習(RPE 7 × 80分)= 560 金曜:軽い調整(RPE 3 × 30分)= 90 土曜:試合(RPE 9 × 90分)= 810

週間トレーニング負荷 = 2,715 AU

この値を週ごとに追跡することで、「先週より今週は負荷が高い/低い」が数値で把握できる。

② トレーニング単調性(Monotony)

1週間のセッションsRPEの標準偏差に対する平均値の比率。

Monotony = 週間平均sRPE ÷ 週間sRPEの標準偏差

この値が高い(1.5以上)と、毎日似たような負荷が続いている(=変化がない)ことを示す。研究では、Monotonyが高い状態が続くとオーバートレーニングや免疫機能の低下リスクが上昇するとされている。

ピリオダイゼーションでは、週の中で高強度日と低強度日を意図的に分けることで、Monotonyを下げる設計が推奨される。

③ トレーニングストレイン(Strain)

Strain = 週間トレーニング負荷 × Monotony

全体の負荷が高く、かつ変化が少ない(Monotonyが高い)場合に、Strainが跳ね上がる。Strainが過度に高い週が続くと、怪我や体調不良のリスクが上昇する。

逆に、週間負荷が高くてもMonotonyが低ければ(高強度と低強度が適切に分散されていれば)、Strainは抑えられる。

急性慢性負荷比(ACWR)

近年、トレーニング負荷管理で最も注目されている指標がACWR(Acute:Chronic Workload Ratio)だ。

ACWR = 直近1週間の負荷(急性負荷)÷ 直近4週間の平均負荷(慢性負荷)

この比率が、選手の現在の負荷が「普段のレベル」に対してどのくらいの位置にあるかを示す。

ACWRの目安

0.8〜1.3 → スイートスポット(適切な負荷範囲)

1.5以上 → 急激な負荷増加(怪我リスク上昇)

0.8未満 → 負荷不足(ディトレーニングリスク)

たとえば、過去4週間の平均週間負荷が2,500 AUで、今週の負荷が3,200 AUなら:

ACWR = 3,200 ÷ 2,500 = 1.28

→ スイートスポットの上限に近い。もう少し上げると危険ゾーンに入る。

ACWRの最大の価値は、「急激な負荷変化」を検知できることだ。問題なのは負荷の絶対値が高いことではなく、負荷が急に増えることだ。慢性的に高い負荷に適応している選手は、高い負荷に耐えられる。しかし、急に負荷が跳ね上がると、身体が適応する時間がなく、怪我のリスクが上昇する。

※ACWRについては近年、計算方法(ローリングアベレージ vs EWMA)やその有効性に対する議論もあり、万能な指標ではないことを注記しておく。あくまで「負荷変化の参考指標」として使うのが現実的だ。

sRPEとピリオダイゼーションの接続

sRPEから導き出されるこれらの指標は、ピリオダイゼーションの「計画と実行のギャップ」を可視化するのに極めて有効だ。

①計画通りの負荷がかかっているかの検証 GPPでボリュームを高く設計しているのに、sRPEベースの週間負荷が上がっていなければ、「計画上はハードだが、実際にはそこまで追い込めていない」可能性がある。逆に、ディローディング週なのに週間負荷が下がっていなければ、「計画上は回復週だが、実際には休めていない」ということになる。

②ディローディングのタイミングの判断 ACWRが1.5に近づいていたら、計画を前倒ししてディローディングを入れる判断材料になる。計画的ディローディングと反応的ディローディングの併用において、sRPEデータは反応的判断の根拠を提供する。

③テーパリングの効果検証 テーパリング期間中に週間負荷が計画通りに低下しているかを確認できる。テーパリング後のパフォーマンスデータとsRPEの推移を照合することで、「次回はテーパリングの減少率を変えてみよう」という改善につながる。

現場での導入ステップ

sRPE法の導入は、以下の3ステップで始められる。

ステップ1:毎セッション後にRPEを記録する セッション終了後30分以内に、選手に10段階でセッション全体のきつさを評価してもらう。最初は選手ごとに感覚のばらつきがあるが、2〜3週間で安定してくる。

ステップ2:週間トレーニング負荷を計算する セッション時間×RPEを毎日記録し、週ごとに合計する。スプレッドシートで十分管理できる。

ステップ3:ACWRを4週目以降に算出する 4週間分のデータが蓄積されたら、ACWRを毎週計算する。0.8〜1.3の範囲に収まっているかを確認する。

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