トレーニング年間計画の立て方|S&Cコーチが教える5つのステップと具体例
「年間のトレーニング計画を立てたほうがいいのはわかっている。でも、具体的にどうやって作ればいいのかわからない。」
コーチや選手からこういう相談を受けることがよくある。
ピリオダイゼーション(期分け)の理論を解説した記事は多い。でも、理論を知ったあとに「じゃあ自分の現場で、具体的にどういう手順で年間計画を組めばいいのか」というところまで落とし込んだ情報は、思った以上に少ない。
この記事では、S&Cコーチとして実際に年間トレーニング計画を作っている立場から、「最初に何を決めて、どの順番で組み立てていけばいいか」を5つのステップで解説する。
特定の競技に限定せず、どの競技にも応用できるフレームワークとして書くので、自分の競技に置き換えながら読んでみてほしい。
ステップ1:試合日程を把握し、ピークを決める
年間計画の出発点は、トレーニングの中身ではなく、「いつ、何に合わせるか」を決めることだ。
まず、年間の試合スケジュールを書き出す。大会日程、予選会、記録会、合宿、遠征——スケジュールに影響を与えるイベントをすべて洗い出す。
次に、その中で優先順位をつける。すべての試合に100%のコンディションで臨むのは現実的に不可能なので、「この大会にピークを合わせる」というターゲットを絞り込む。年間で1〜3つが現実的だ。
ターゲット試合が決まれば、そこが年間計画のゴールになる。すべてのトレーニングは、そこに向けて逆算で組み立てていく。
ここで注意したいのは、ピークを複数設定する場合の間隔だ。ピークとピークの間が近すぎると、十分な準備期間が確保できない。最低でも8〜12週間の間隔を空けるのが目安になる。もちろん競技特性や選手のレベルによって変動するので、一律の正解はない。
ステップ2:マクロサイクルを3つの期間に分ける
ターゲット試合が決まったら、年間を大きく3つの期間に区分する。これがマクロサイクルの骨格だ。
準備期(一般的準備期+専門的準備期) 試合から最も離れた時期。体力的な土台を作る期間だ。トレーニングのボリュームが最も多く、基礎的な体力要素を幅広く鍛える。前半(一般的準備期)は全般的な筋力・持久力・柔軟性を高め、後半(専門的準備期)で競技特異的な能力にシフトしていく。
準備期の長さは、利用可能な期間全体から試合期と移行期を引いた残りで決まる。長ければ長いほど土台が厚くなるが、短くても最低4〜6週間は確保したい。
試合期(テーパリング+試合) ターゲット試合に向けてコンディションを合わせる時期。トレーニング量を計画的に落としながら強度は維持する。この量の漸減を「テーパリング」と呼ぶ。
テーパリングの期間は一般的に1〜3週間。ボリュームは40〜60%程度まで落とすが、強度(重量やスピード)は維持するのが基本だ。量を落としすぎるとディトレーニング(体力の低下)が起き、落とさなすぎると疲労が抜けない。このバランスは選手ごとに異なるため、経験を重ねて精度を上げていく必要がある。
移行期(アクティブリカバリー) シーズン終了後の回復期間。完全に休むのではなく、低強度の運動でアクティブに回復を促す。精神的なリフレッシュも重要で、普段と違う運動や、レクリエーション的な活動を取り入れることも多い。
移行期は通常2〜4週間。次のシーズンの準備期にスムーズに移行できることがゴールだ。
ステップ3:メゾサイクルで目的別ブロックを配列する
マクロサイクルで大枠が決まったら、準備期と試合期をさらに2〜6週間のブロック(メゾサイクル)に分割する。
各メゾサイクルには、特定のトレーニング目的を設定する。典型的な配列は以下のような流れだ。
一般的準備期 → 筋肥大ブロック(3〜4週間):中負荷・高ボリュームで筋量の土台を作る → 基礎筋力ブロック(3〜4週間):中〜高負荷で最大筋力の基盤を構築
専門的準備期 → 最大筋力ブロック(2〜4週間):高負荷・低ボリュームで筋力のピークを引き上げる → パワー・スピードブロック(2〜3週間):中負荷・高速で爆発的な力発揮能力を養成
試合期 → テーパリング(1〜3週間):ボリュームを漸減、強度は維持、疲労の回復を優先
この配列はあくまで「線形ピリオダイゼーション」の一例だ。非線形(波状型)やブロック型を採用する場合は配列が変わるが、「メゾサイクルごとに目的を明確にする」という原則は同じだ。
ここで大切なのは、各ブロックの間にディローディング(減負荷週)を入れることだ。通常、3〜4週間のローディング(負荷を漸増させる期間)のあとに1週間のディローディングを設ける。ディローディング週ではボリュームを通常の50〜60%程度に落とし、蓄積疲労を回復させる。
ディローディングを入れずに負荷をかけ続けると、パフォーマンスの停滞やオーバートレーニングにつながる。「3週間オン、1週間オフ」あるいは「2週間オン、1週間オフ」のリズムを基本形として持っておくとよい。
ステップ4:ミクロサイクルで1週間のセッションを組む
メゾサイクルの目的が決まったら、それを1週間単位の具体的なセッション配置に落とし込む。これがミクロサイクルだ。
ミクロサイクルを設計するときに考慮するのは、以下の4つだ。
①トレーニング頻度(週何回やるか) 準備期であれば週3〜5回、試合期は週2〜3回が一般的な目安。競技練習との兼ね合いで調整する。
②セッションの配置(いつやるか) 高強度セッションと低強度セッションを交互に配置し、回復時間を確保する。たとえば月曜に高強度の下半身トレーニングを行ったら、火曜は上半身または低強度の補助種目にする。同じ筋群に高強度の刺激を連日入れるのは避ける。
③セッション内容の選定(何をやるか) メゾサイクルの目的に沿った種目・強度・セット数・レップ数を設定する。筋肥大期なら8〜12RM×3〜4セット、最大筋力期なら3〜6RM×3〜5セットといった具合だ。
④競技練習との統合 S&Cトレーニングだけで週間スケジュールを決めるわけにはいかない。競技練習、技術練習、チーム練習の日程を先に確認し、その隙間にS&Cセッションを配置する。試合直前の高強度トレーニングや、競技練習の直前にハードな下半身トレーニングを入れるのは避ける。
ステップ5:計画を可視化して共有する
ステップ1〜4で年間計画の中身は組み上がった。しかし、ここで終わるコーチが非常に多い。
最後のステップは、「組み上げた計画を可視化して、関係者と共有する」ことだ。
頭の中やメモ帳に計画があるだけでは不十分だ。年間計画は、選手・ヘッドコーチ・スタッフ全員が「今どこにいて、次にどこへ向かうのか」を一目で把握できる形になって初めて機能する。
可視化のポイントは、マクロサイクルの全体像が一覧で見渡せること。準備期・試合期・移行期がいつからいつまでで、各メゾサイクルの目的は何か。ディローディングはどこに入るか。ターゲット試合はいつか。これらが1枚の図として見えると、計画の全体像がチーム全体で共有できる。
ガントチャート形式で横軸に時間、縦軸に選手やフェーズを並べると、複数選手の計画を俯瞰しやすい。
作った計画は「修正するもの」として扱う
5つのステップで組み上げた計画は、完成した時点で「暫定版」だと思っておいたほうがいい。
シーズンが始まれば、必ず想定外のことが起きる。選手の怪我、試合日程の変更、コンディションの予想外の変動。その都度、計画を修正する必要がある。
大事なのは、修正すること自体を失敗と捉えないことだ。計画があるからこそ、「何がどうズレたか」が特定でき、「どう修正すればいいか」が判断できる。計画なしに場当たり的に対応するのとは、質がまったく違う。
そして、修正のしやすさはツールに大きく依存する。Excelで組んだ計画を修正するたびに数式を組み直して印刷設定を調整して……というコストが高すぎると、修正自体を避けるようになる。結果として、計画が現実と乖離したまま放置される。
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