テーパリングとは? 試合でピークを出すための「量の落とし方」をS&Cコーチが解説
試合前にトレーニング量を減らす——言葉にすると単純だ。でも、「どのくらい」「いつから」「何を減らして何を残すか」を適切に判断するのは、実はかなり難しい。
この「試合に向けてトレーニング量を計画的に減らしていく過程」を、テーパリング(Tapering)と呼ぶ。
テーパリングは、ピリオダイゼーション(期分け)における試合期の中核をなす手法だ。どれだけ質の高いトレーニングを積んできても、試合当日に疲労が残っていれば、その蓄積した体力を100%発揮することはできない。テーパリングは、トレーニングで培った体力を維持しながら、蓄積疲労だけを取り除くための戦略的な調整期間だ。
この記事では、S&Cコーチとしてさまざまな競技の選手にテーパリングを設計してきた立場から、基本的な考え方、具体的なパラメータの操作方法、そして現場で感じている難しさまで、できるだけ実践的に書いてみたい。
テーパリングで操作する3つの変数
テーパリングで操作するのは、トレーニングの「量」「強度」「頻度」の3つだ。この3つのうち、何を減らして何を維持するかが、テーパリングの成否を分ける。
結論から言えば、研究知見と現場経験の両方が示す方向は一致している。
量(ボリューム)は大きく減らす。強度は維持する。頻度はあまり落とさない。
これがテーパリングの基本原則だ。
量の減らし方
トレーニングボリュームは、テーパリング期間全体で40〜60%程度まで落とす。たとえば、通常週にスクワット5セット×5レップを3回やっていたなら、セット数を3セットに減らす、あるいはセッション数を2回に減らすといった調整を行う。
ここで重要なのは、量の落とし方のカーブだ。テーパリングには主に3つのパターンがある。
直線的テーパリング:試合日に向けて一定のペースで量を減らしていく。最もシンプルだが、テーパリング前半にまだ量が多く残るため、疲労の抜けが遅い。
段階的テーパリング:初日にガクンと量を落とし、あとは一定の水準を維持する。シンプルだが、最適な負荷の微調整が効きにくい。
指数関数的テーパリング:序盤に大きく量を落とし、その後は緩やかに減らしていく。研究レベルでは、このパターンが最も効果的であるとする報告が多い。
どのパターンを採用するにせよ、「テーパリング期間に入ったら、量は思い切って落とす」という点は共通だ。ありがちな失敗は、「量を落としすぎたら体力が落ちるのでは」という不安から、結局あまり減らせないケースだ。
強度の維持
テーパリング中にトレーニング強度(使用重量やスピード)を落とすと、神経系の活性が低下し、パフォーマンスが落ちるリスクがある。
たとえば、通常80%1RMでスクワットをしている選手が、テーパリング中に60%1RMまで強度を下げてしまうと、試合当日に重い負荷に対する神経系の準備ができていない状態になる。
強度は維持、場合によってはわずかに上げるくらいが適切だ。セット数やレップ数を減らすことでボリュームは十分に下がるので、強度を下げる必要はない。
頻度の管理
頻度(週何回トレーニングするか)は、大きく変えないことが推奨されている。通常の80%以上を維持するのが目安だ。
週4回トレーニングしていたなら、週3回程度には減らしてもいいが、週1回にまで落とすのは推奨されない。トレーニング頻度を極端に減らすと、身体がトレーニング刺激に対して「鈍く」なる。試合直前になって急にトレーニングから離れると、むしろ調子を崩すことがある。
テーパリングの適切な期間はどのくらいか
テーパリングの期間は、一般的に1〜3週間が推奨されている。
ただし、これは選手の競技特性、トレーニング歴、蓄積疲労の度合い、そして競技種目によって変わる。
短すぎるテーパリング(3〜4日) では、蓄積疲労が十分に回復しない。日常的な疲労は取れても、数ヶ月のトレーニングで蓄積した深い疲労は数日では抜けない。
長すぎるテーパリング(4週間以上) では、ディトレーニング(体力低下)のリスクが出てくる。特に筋力やパワーは、刺激が不足すると比較的早く低下し始める。
僕の感覚として、ほとんどの競技アスリートには2週間前後のテーパリングがフィットすることが多い。ただ、これはあくまで出発点で、選手個人の反応を見ながらシーズンを重ねて精度を上げていくものだ。
テーパリングとディローディングは何が違うのか
テーパリングと混同されがちなのが「ディローディング(減負荷週)」だ。
ディローディングは、トレーニングサイクルの途中に定期的に設ける「回復週」だ。3〜4週間のローディング(漸増負荷)のあとに1週間のディローディングを入れて、蓄積疲労をリセットする。目的は「次のトレーニングブロックに備えること」だ。
テーパリングは、試合に向けた最終調整だ。蓄積疲労を回復させるという点ではディローディングと共通するが、目的が異なる。テーパリングのゴールは「試合当日にパフォーマンスのピークを合わせること」であり、単に疲労を抜くだけではなく、強度の維持や神経系の活性化まで含めた総合的な調整だ。
年間計画の中で両者を明確に区別して配置することが重要だ。準備期にはディローディングでこまめに回復を入れ、試合期にはテーパリングでピークを合わせる。
テーパリングが「怖い」という問題
現場でテーパリングを指導していて感じるのは、「練習量を落とすこと自体が怖い」と感じるコーチや選手が少なくないということだ。
「試合前なのにこんなに休んでいいのか」「サボっているように感じる」「ライバルはまだ練習しているのに」——こうした心理的な抵抗感が、適切なテーパリングの実行を妨げることがある。
特に日本のスポーツ文化では、「練習量=努力」「試合直前まで追い込むのが美徳」という価値観が根強い。テーパリングはこの価値観と真っ向から対立する。
これはメンタルの問題であると同時に、仕組みの問題でもある。
テーパリングの効果を実感するには、「テーパリング前後でパフォーマンスがどう変化したか」を記録として残し、シーズンを重ねて検証する必要がある。でも、計画が頭の中やバラバラのExcelに散らばっていると、「前回はいつからテーパリングに入って、どのくらい量を落としたか」が振り返れない。結果として、毎年同じ不安を抱えたまま、テーパリングの精度が上がらない。
テーパリングの精度を上げるために必要なこと
テーパリングは一発で完璧にやるものではなく、シーズンを重ねて精度を上げていくものだ。
そのためには、3つの要素が必要になる。
①試合からの逆算。テーパリングの開始日は、試合日から逆算して設定する。つまり、年間計画の中でテーパリングの位置が明確に定義されている必要がある。
②期間中の変数管理。テーパリング中の量・強度・頻度が週単位で記録されていること。「何を減らして、何を残したか」が後から確認できなければ、翌シーズンの改善に活かせない。
③前年との比較。去年のテーパリングと今年のテーパリングを並べて比較できること。期間、量の落とし幅、選手のパフォーマンス反応——これらを年単位で蓄積していくことで、個々の選手に最適なテーパリング戦略が見えてくる。
この3つを実現するには、年間計画が「形として残っていて、検索・比較・振り返りができる状態」にあることが前提になる。
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