準備期のトレーニング設計|「土台作り」で手を抜くと、シーズンのすべてが崩れる
ピリオダイゼーションの中で、最も地味で、最も重要な期間がある。
準備期だ。
試合もなく、結果も出ない。選手のモチベーションが最も上がりにくい時期でもある。でも、ここで作った土台の厚さが、シーズン全体のパフォーマンスの天井を決める。
前回の記事で「試合期にS&Cトレーニングをやめていませんか?」と書いた。試合期のS&Cは「維持」が目的だ。では、何を維持するのか。準備期に積み上げたものを維持するのだ。
つまり、準備期の設計がそもそも甘ければ、試合期に維持するものすらない。
この記事では、準備期のトレーニング設計——期間の考え方、フェーズの分け方、強度とボリュームの設定、そして現場で気をつけていることを、できるだけ具体的に書いてみたい。
準備期の長さはどう決めるか
準備期の長さは「取れるだけ長く」が基本だ。
年間計画を組むとき、まず試合日程を確認し、試合期とテーパリングの期間を逆算で確定させる。移行期(オフシーズン)を2〜4週間確保する。残った期間が準備期だ。
理想を言えば、準備期は12〜16週間ほしい。8週間あれば最低限の土台は作れるが、体力要素を段階的に積み上げるには短い。6週間以下だと、「土台を作る」というより「とりあえず身体を動かす」で終わりかねない。
ただし現実には、試合スケジュールが詰まっていて準備期が短くならざるを得ないケースも多い。特にシーズンが年に2回ある競技や、年間を通じて試合がある競技では、準備期の確保自体が課題になる。
限られた期間の中で何を優先するか——この判断が、準備期の設計の核になる。
一般的準備期と専門的準備期
準備期は通常、2つのフェーズに分けて設計する。
一般的準備期(GPP: General Physical Preparation)
準備期の前半に位置するフェーズ。トレーニングの「幅」を広げる時期だ。
目的は、基礎的な体力要素——筋力、筋持久力、有酸素能力、柔軟性、関節の安定性——を幅広く向上させること。競技に直結しない一般的なトレーニングも含まれる。
このフェーズの特徴は、ボリュームが高く、強度は中程度であること。
具体的には、筋肥大を目的としたトレーニング(8〜12RM、3〜4セット)を中心に、補助種目も幅広く取り入れる。有酸素系のコンディショニングも並行して行う。
GPPで重要なのは、「競技に関係ないからやらなくていい」とは考えないことだ。筋肥大は最大筋力の基盤になる。有酸素能力はセッション間の回復力に影響する。柔軟性と関節安定性は怪我の予防に直結する。
「遠回りに見えるけど、ここが全部の土台になる」——これがGPPの本質だ。
専門的準備期(SPP: Specific Physical Preparation)
準備期の後半に位置するフェーズ。トレーニングの「深さ」を掘る時期だ。
GPPで作った基礎体力をベースに、競技で求められる特異的な能力——最大筋力、パワー、スピード、競技特異的な持久力——にシフトしていく。
このフェーズでは、ボリュームが漸減し、強度が漸増する。
具体的には、最大筋力の向上を目的としたトレーニング(3〜6RM、3〜5セット)が中心になる。種目も、競技動作に近いコンパウンド種目に絞り込んでいく。補助種目は減らし、主要リフトに集中する。
GPPからSPPへの移行は、明確な線を引くよりも、2〜3週間かけてグラデーション的に移行するほうが身体への適応がスムーズだ。
準備期の強度・ボリューム設計の具体例
準備期全体を通じた強度とボリュームの推移を、具体的な数値で示してみる。12週間の準備期を想定する。
GPP(1〜6週目)
目的:筋肥大+基礎筋力+有酸素能力
週強度(%1RM)レップセットセッション/週1-265-70%10-1233-43-470-75%8-103-43-45-672-78%8-1043-4
※6週目の最終週、または4週目後にディローディング(1週間、ボリューム50%)を入れる。
SPP(7〜12週目)
目的:最大筋力+パワー発揮
週強度(%1RM)レップセットセッション/週7-878-82%5-63-43-49-1082-87%3-54-5311-1285-90%2-43-53
※10週目後にディローディング(1週間)を入れる。12週目終了後、テーパリングに移行。
この数値はあくまで目安だ。選手のトレーニング歴、競技特性、1RMの水準によって調整が必要になる。でも、「ボリューム高→低、強度低→高」という全体の方向性は、線形ピリオダイゼーションの基本であり、多くの競技・選手に適用できるフレームワークだ。
準備期で僕が気をつけていること
理論的な設計の話は以上として、ここからは現場で実際に気をつけていることを書いておく。
①最初の2週間は「慣らし」
移行期(オフ)明けの選手は、身体がトレーニング刺激に慣れていない。ここでいきなり高ボリュームを入れると、DOMS(遅発性筋肉痛)がひどくて翌日動けなくなる。
最初の2週間は、最終的な目標ボリュームの60〜70%程度から入って、段階的に上げていく。「準備期の準備期間」だと思っておくくらいでちょうどいい。
②ディローディングのタイミングを先に決める
準備期の設計で最初にやるのは、ディローディングの配置だ。12週間の準備期なら、4週目と10週目にディローディングを入れる。先にこの「休む日」を決めてしまうことで、ローディングの計画が組みやすくなる。
ディローディングを「余裕があったら入れる」と後回しにすると、結局入れられないまま突っ走って、SPPに入る頃に疲労が溜まっている——というのは何度も経験した。
③1RMのリテストを計画に組み込む
準備期の強度設定は1RMベースで行うことが多いが、古い1RMのまま12週間走り続けると、後半で強度が合わなくなる。GPPで筋肥大が進めば1RMも変わるからだ。
僕はGPPからSPPに移行するタイミング(6〜7週目あたり)で1RMのリテストを入れるようにしている。ここで更新された1RMを基に、SPPの強度設定をやり直す。
④モチベーション管理は仕組みで解決する
準備期は選手のモチベーションが最も下がりやすい。試合がなく、目に見える成果も出にくい。
ここで「気合で乗り越えよう」とするのではなく、仕組みで解決する。具体的には、4週ごとに体力テストを入れて数値の変化を可視化する。「スクワットの1RMが5kg上がった」「30秒パワーテストのワット数が上がった」——こうした数字が、選手にとっての進歩の実感になる。
年間計画の中でテストのタイミングが明示されていると、選手は「次のテストまでにここまで上げたい」という短期目標を持てる。
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