持久系競技の期分け|マラソン・トライアスロンで「狙ったレースにピークを合わせる」設計
マラソン、トライアスロン、ロードバイク、長距離走——持久系競技は、球技とはまた違った期分けの特徴を持つ。
球技が「長いシーズンを毎週の試合で戦い抜く」設計だったのに対し、持久系競技は多くの場合、「年に数回の目標レースに、ピークを合わせる」設計だ。この点では、陸上短距離や水泳に近い、古典的なピリオダイゼーションが適用しやすい。
一方で、持久系競技ならではの難しさもある。膨大なトレーニング量、有酸素能力と筋力の両立、そして「走り込み(or 泳ぎ込み・乗り込み)だけ」になりがちな落とし穴。
この記事では、持久系競技のピリオダイゼーションの基本構造と、市民ランナー・トライアスリートにも役立つ設計の考え方を解説する。
持久系競技の期分けの基本構造
持久系競技のピリオダイゼーションは、目標レースから逆算して組む。典型的には以下の流れになる。
基礎期(Base / 一般的準備期)
最も長く取るフェーズ。有酸素能力の土台を作る。
低〜中強度の持久走を中心に、走行距離(ボリューム)を徐々に増やしていく。「ゆっくり長く」がこの時期の基本。派手さはないが、この土台の厚さが最終的なパフォーマンスの天井を決める。
このフェーズで、心肺機能、毛細血管の発達、ミトコンドリアの増加、脂質代謝能力といった持久系の基盤が作られる。ここを焦って高強度に走ると、土台が薄いまま次に進むことになる。
発展期(Build / 専門的準備期)
基礎期で作った土台の上に、レースに特異的な能力を積み上げるフェーズ。
閾値走(テンポ走)、インターバルトレーニング、レースペース走など、強度の高いトレーニングの割合が増える。乳酸性作業閾値(LT)やVO2maxの向上を狙う。ボリュームはやや抑えつつ、強度を上げていく。
ピーク期・テーパリング
目標レースに向けて疲労を抜き、パフォーマンスを最大化するフェーズ。
テーパリングの記事で書いた通り、ボリュームを大きく減らし(持久系では40〜60%程度)、強度は維持する。数週間かけて蓄積疲労を抜くことで、蓄積したフィットネスがレース当日に最大限発揮される。
移行期(オフ)
レース後の回復期。心身をリセットし、次のシーズンに備える。
持久系のトレーニング強度の考え方
持久系競技では、トレーニング強度を「ゾーン」で管理するのが一般的だ。心拍数、ペース、パワー(バイク)、主観などを基準に、強度を複数のゾーンに分ける。
代表的な考え方が「ポラライズドトレーニング(両極化トレーニング)」だ。
これは、トレーニングの大部分(約80%)を低強度で行い、残り(約20%)を高強度で行うという考え方だ。中強度(きついけど耐えられる、くらいのペース)を避けるのがポイント。
多くの市民ランナーが陥りがちなのが、「いつも同じ中強度で走る」パターンだ。楽すぎず、きつすぎない、中途半端な強度ばかりで走ってしまう。これでは、低強度の土台づくりも、高強度の刺激も中途半端になる。
「楽な日は思い切り楽に、きつい日は思い切りきつく」——このメリハリが、持久系トレーニングの質を高める。ポラライズドの考え方は、この強度分布の設計指針になる。
持久系競技こそ筋力トレーニングを
持久系競技の最大の落とし穴が、「走り込み(泳ぎ込み・乗り込み)だけ」になることだ。
「持久系の競技なんだから、その競技をやり込めばいい。筋トレは筋肉が重くなるからむしろ邪魔」——こう考える人は今でも多い。
しかし、研究では、持久系アスリートが筋力トレーニングを取り入れると、パフォーマンスが向上することが繰り返し示されている。特に以下のメリットがある。
①ランニングエコノミー(運動効率)の向上 筋力が上がると、同じスピードで走る(泳ぐ・漕ぐ)のに必要なエネルギーが減る。つまり「燃費」が良くなり、同じ努力でより長く・速く動ける。
②怪我の予防 持久系競技は同じ動作の膨大な反復であり、オーバーユース障害が起きやすい。筋力・身体の安定性が、これらの障害リスクを下げる。
③終盤の失速を防ぐ レース終盤、疲労でフォームが崩れると効率が落ちる。筋力があると、疲労下でもフォームを維持しやすい。
重要なのは、持久系アスリートの筋力トレーニングは「筋肥大(筋肉を大きくする)」が目的ではないこと。神経系の適応による筋力・パワー向上を狙う。高強度・低〜中レップ・低ボリュームで、体重を大きく増やさずに筋力を高める。干渉効果(過去記事参照)にも配慮し、持久力トレーニングと筋力トレーニングのタイミングを工夫する。
逆線形ピリオダイゼーションという選択肢
以前「7つのプランニングモデル」の記事で紹介した逆線形ピリオダイゼーションは、持久系競技と相性が良い。
通常の線形が「高ボリューム・低強度 → 低ボリューム・高強度」と進むのに対し、逆線形は逆に「低ボリューム・高強度 → 高ボリューム・低〜中強度」と進む。
持久系では、シーズン序盤に筋力・パワー・スピードを高めておき、レースに向けて持久的なボリュームを増やしていくアプローチが有効な場合がある。特に、レース距離が長く、後半のスタミナが決定的な競技では、この考え方が合致することがある。
ただし、これは一つの選択肢であり、競技・距離・個人によって最適な設計は変わる。基本の線形(基礎期→発展期)をベースにしつつ、筋力要素をどう配置するかを競技特性に合わせて考えるのが現実的だ。
市民アスリートへの実践的アドバイス
プロではなく、仕事をしながら競技に取り組む市民ランナー・トライアスリートに向けて、実践的なポイントを整理する。
①目標レースを決めてから逆算する まず「いつのどのレースに合わせるか」を決める。そこから基礎期・発展期・テーパリングを逆算して配置する。目標が決まると、日々のトレーニングの意味が明確になる。
②ボリュームは焦らず増やす 持久系はボリュームが重要だが、急に増やすと怪我をする。ACWR(急性慢性負荷比)の考え方——週あたりの負荷を急増させない——は、市民ランナーの怪我予防に特に有効だ。「先週より10%以上増やさない」といった目安を持つ。
③週1〜2回の筋トレを組み込む 時間がなくても、週1〜2回の筋力トレーニングを入れる。スクワット、ランジ、片脚系、体幹。これだけで怪我のリスクと効率が変わる。
④生活との両立を前提に設計する 仕事・家庭との両立が市民アスリートの前提。完璧な計画より、続けられる計画を。回復(睡眠・栄養)が不十分な中で高強度を詰め込むと、怪我や体調不良につながる。
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