体力測定の結果をどう管理するか|測りっぱなしにしないためのデータ設計
測定会は、やっている。
垂直跳びも、スプリントも、体組成も測った。当日はストップウォッチと記録用紙を持って走り回り、選手の数字が並んだ。そこまでは、多くの現場でできている。
問題はその半年後だ。
「去年の秋、あの選手のCMJって何センチだった?」と聞かれて、すぐ答えられるだろうか。記録用紙はどこかのファイルにあるはずだが、探すのに10分かかる。見つかっても、去年と今年で測定条件が違ったかどうかが分からない。結局「なんとなく上がってる気がする」で会話が終わる。
測定そのものより、測った後をどう残すかのほうが、実は難しい。この記事では、測定結果が比較できる形で残らない原因を整理し、記録に何を残せばいいのか、どういう単位でデータを設計すればいいのかを書く。
測ったデータが死ぬ3つのパターン
①紙で測って、紙のまま終わる
測定会当日は紙が最速だ。これは間違っていない。タブレットを持って走り回るより、クリップボードに書くほうが早い現場は多い。
死ぬのは、そこから先に進まないときだ。紙のまま保管されたデータは、検索できないし、並べ替えられないし、引き算ができない。前回比を出すには2枚の紙を並べて目で追うしかなく、選手が30人いれば誰もやらなくなる。
紙で測ること自体は問題ない。紙で終わることが問題だ。
②測定回ごとにファイルが増殖する
次に多いのが、測定会のたびに新しいスプレッドシートを作るパターンだ。「2026春_体力測定.xlsx」「2026秋_体力測定.xlsx」と並んでいく。
一見きちんと管理されているように見えるが、この形は縦の比較ができない。ある選手の推移を見たければ、ファイルを何枚も開いて手で転記することになる。しかも測定会ごとに列の順番や項目名が微妙に変わっていて、そのまま結合できない。
さらに厄介なのが、年度が変わって担当者が代わったときだ。ファイル名の規則も、シートの構造も、その人の頭の中にしかない。
③数字はあるが、条件が残っていない
これが一番もったいない。値は残っているのに、その値がどういう条件で出たのかが記録されていないケースだ。
垂直跳びを両手を振って測ったのか、手を腰に固定して測ったのか。スプリントの計測はストップウォッチか、光電管か。体組成はどの機種で、朝食前か後か。
条件が違えば、数字は簡単に数センチ・数十分の1秒動く。条件を書いていない過去の数値は、上がったのか、測り方が変わっただけなのかを永久に区別できない。比較できないデータは、残っていないのとほとんど同じだ。
記録に必ず残す5項目
逆に言えば、次の5つが揃っていれば、そのデータは後から使える。
1. 測定日 — 「2026年春」ではなく日付。シーズンのどこかを後から判断するために要る
2. 選手 — 名前だけでなく、学年やポジションと紐づく形で
3. 種目 — 表記を統一する。「CMJ」「垂直跳び」「ジャンプ」が混在すると集計できない
4. 値と単位 — cm か mm か、秒か 1/100秒か。単位を列名に含めてしまうのが安全
5. 測定条件 — 機種、プロトコル、試技回数、ベストかアベレージか
5番目が抜けやすい。しかし、測定方法や機種を変えたら、その前後は比較しないという判断を後からするために、これが要る。体組成のように機種差が大きい項目では特に効く。
「測定回」を単位にする
データ設計の肝は、何を1件とみなすかだ。
ありがちなのは「選手1人=1行」で、右にどんどん列を足していく形。春の垂直跳び、秋の垂直跳び、春のスプリント……と横に伸びていく。この形は測定会が2〜3回なら読めるが、3年目に入ると列が数十本になって破綻する。
推奨は、「測定回 × 選手 × 種目 = 1件」という持ち方だ。縦に伸びる形になる。
この単位で持っておくと、後から何でも出せる。ある選手の推移も、ある測定回のチーム内順位も、ある種目のチーム平均も、同じデータから切り出せる。横に伸ばす設計では、新しい種目を足すたびに構造を作り替えることになるが、縦の設計なら行が増えるだけだ。
比較の形まで作って、はじめて記録になる
数字が残っているだけでは、現場では使われない。比較の形になっていて、はじめて意味を持つ。
現場で実際に見るのは、だいたいこの3つだ。
- 前回比 — その選手が伸びたのか、落ちたのか
- チーム内の位置 — 平均と比べてどうか、順位はどのあたりか
- 推移 — 3回、4回と並べたときの傾き
ひとつ注意がある。チーム平均との比較は、学年が混ざったチームでは1年生が不利に出る。伸び盛りの1年生が「平均以下」と表示され続けるのは、フィードバックとして機能しない。学年で区切るか、平均と比べず本人の推移だけを見せるか、どちらかを選ぶ必要がある。
選手に返すところまでが記録
そして、記録の最後の工程は選手に返すことだ。
測定は選手にとって負荷でもある。全力のスプリントを何本も走らせておいて、結果が返ってこなければ、次の測定会への協力度は確実に下がる。「また測るのか」という空気は、だいたいこれが原因で生まれる。
返す形は凝らなくていい。自分の数字と、前回からの変化と、チームの中でのおおよその位置。この3つが1枚に載っていれば十分に伝わる。紙1枚を渡すだけで、測定が「やらされるもの」から「自分の状態を知る機会」に変わる。
まとめ
体力測定の管理でつまずく原因は、測定の技術ではなく、記録の設計にある。
- 紙で測るのはいい。紙で終わるのが問題
- 測定回ごとにファイルを分けると、縦の比較ができなくなる
- 値だけでなく測定条件を残す。これが無いと、伸びたのか測り方が変わったのかを判別できない
- 「測定回 × 選手 × 種目」を1件として縦に持つ。横に列を足す設計は3年目で破綻する
- 前回比・チーム内の位置・推移という比較の形まで作る
- 選手に返すところまでが記録
まずは項目の表記統一と、測定条件を書く欄を1つ足すところから始められる。それだけでも、来年の自分が助かる。
一方で、前回比や推移を毎回手作業で計算し続けるのは、担当者の熱量に依存する運用になりやすい。集計と可視化まで自動でつながる形にしたいなら、専用のツールを検討する価値がある。
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