ウォームアップを設計する|RAMPプロトコルと、メインセットへつなげる漸増セットの組み方
ウォームアップ、なんとなくやっていないだろうか。
「軽くジョグして、ストレッチして、バーだけで何回か挙げて、じゃあ始めようか」——この流れ自体は間違っていない。でも、「なぜその順番なのか」「何分かけるべきか」「メインセットの重量までどう刻むか」を設計として説明できるコーチは、意外と少ない。
ウォームアップはセッションの「前置き」ではない。その日のメインセットの質を決める、セッションの一部だ。
この記事では、ウォームアップ設計の国際標準であるRAMPプロトコルと、メインセットへつなげる漸増セット(ウォームアップセット)の具体的な組み方を解説する。
ウォームアップの目的を分解する
ウォームアップの目的は「身体を温める」だけではない。分解すると4つある。
①体温・筋温の上昇 筋温が上がると、筋の粘性が下がり、収縮速度と力発揮が向上する。神経伝導速度も上がる。体温1℃の上昇でパフォーマンスが数%向上するという報告もある。
②神経系の活性化 これから行う動作パターンに対して、神経系を「予熱」する。運動単位の動員をスムーズにし、メインセットでの力発揮を高める。
③可動域の確保 その日のセッションで必要な関節可動域を確保する。スクワットなら股関節・足関節、オーバーヘッド系なら肩関節・胸椎。
④心理的準備 セッションへの集中状態を作る。特に高強度セッションや試合前は、心理的なスイッチの切り替えが重要だ。
「なんとなくのウォームアップ」は、この4つのうちいくつかが抜け落ちる。設計されたウォームアップは、4つすべてを系統的にカバーする。
RAMPプロトコル
ウォームアップ設計のフレームワークとして最も普及しているのが、Ian Jeffreysが提唱したRAMPプロトコルだ。
RAMPは4つのフェーズの頭文字だ。
R:Raise(上げる)
体温・心拍数・呼吸数・血流を上げるフェーズ。
軽い有酸素運動(ジョグ、バイク、ローイング、縄跳びなど)を5分程度。強度は会話ができる程度の軽さでいい。
ポイントは、この後のセッション内容に関連する動きを選ぶこと。下半身のセッションならバイクやジョグ、全身のセッションならローイングなど。
A:Activate(活性化する)
メインセッションで使う筋群を活性化するフェーズ。
特に「眠りがちな筋群」——殿筋群、肩甲骨周囲筋、体幹深部——をターゲットにする。
例:
グルートブリッジ × 10回(殿筋の活性化)
バンドウォーク × 左右10歩(中殿筋)
スキャプラプッシュアップ × 10回(前鋸筋)
デッドバグ × 左右5回(体幹)
各種目1〜2セット、合計5分程度。
M:Mobilise(可動性を高める)
その日のセッションで必要な可動域を確保するフェーズ。
ここで重要なのは、静的ストレッチではなく動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)を使うことだ。
トレーニング前の長時間の静的ストレッチ(30秒以上のホールド)は、筋力・パワー発揮を一時的に低下させる可能性が研究で示されている。トレーニング前は動的、トレーニング後やオフの日に静的、という使い分けが基本だ。
例(スクワットセッションの場合):
ワールドグレイテストストレッチ × 左右5回
スパイダーマンランジ+ローテーション × 左右5回
ヒップサークル × 左右10回
足関節モビリティドリル × 10回
5分程度。
P:Potentiate(強化・準備する)
メインセッションの強度に向けて、神経系を段階的に引き上げるフェーズ。
スプリントセッションなら徐々にスピードを上げる加速走。ジャンプセッションなら低強度のジャンプから開始。ウエイトトレーニングなら漸増セットがここに該当する。
このフェーズの後半は、メインセットとほぼ同じ強度・速度に達する。「ウォームアップの終わり」と「メインセッションの始まり」がシームレスにつながるのが理想だ。
漸増セットの組み方(ウエイトトレーニング編)
RAMPのPフェーズにあたる漸増セットの具体的な組み方を解説する。
基本原則
①重量は段階的に上げ、レップ数は段階的に減らす 軽い重量で動作を確認し、重量を上げるごとにレップを減らして疲労を抑える。
②メインセットの重量の40〜50%から始める バーのみ(20kg)または40〜50%の重量からスタート。
③ウォームアップで疲労しない 漸増セットの目的は「準備」であって「トレーニング」ではない。総レップ数を抑え、セット間の休息も短め(60〜90秒)でテンポよく進める。
具体例:スクワット メインセット140kg × 5レップの場合
バー(20kg)× 10回 …動作確認
60kg(約43%)× 8回
85kg(約60%)× 5回
105kg(75%)× 3回
125kg(約90%)× 1回
メインセット 140kg × 5回 × 3セット
ポイントは、最後の漸増セット(90%前後×1回)だ。メインセット重量に近い負荷を1回だけ挙げることで、神経系を最大動員に近い状態まで引き上げる。1回に抑えることで疲労は最小限になる。
高強度日と中強度日で変える
メインセットの強度によって、漸増セットの段数も変わる。
高強度日(85%1RM以上):4〜5段の漸増。神経系をしっかり引き上げる。 中強度日(70〜80%1RM):3段程度で十分。
軽い日(60%台):2段程度。バー→50%→メイン。
メインセットが重いほど、丁寧に階段を作る。
ウォームアップにかける時間
RAMPプロトコル全体で、15〜25分が標準だ。
R:5分
A:5分
M:5分
P:5〜10分(漸増セットの段数による)
時間がない日でも、最低10分(R短縮+A・M統合+P)は確保したい。ウォームアップを削ってメインセットの質が落ちるくらいなら、メインセットのボリュームを1セット削るほうがましだ。
逆に、ウォームアップが長すぎる(30分超)のも問題だ。メインセットの前に疲労してしまっては本末転倒。コンパクトに、系統的に。
フェーズ・季節による調整
ピリオダイゼーションのフェーズや環境によって、ウォームアップも調整する。
高強度期(SPP):Pフェーズを厚くする。漸増セットの段数を増やし、神経系の準備を丁寧に行う。
高ボリューム期(GPP):メインセットの強度が中程度なので、Pフェーズは簡潔でいい。そのぶんAとMを丁寧に行い、動作の質を高める。
試合期:時間が限られるため、RAMPを15分以内に圧縮。試合当日のウォームアップは別途設計する(試合開始時刻から逆算)。
冬季・寒冷環境:Rフェーズを長めに(7〜10分)。筋温が上がりにくい環境では、体温上昇に時間をかける。
夏季・暑熱環境:Rフェーズは短縮可能。ただし暑熱下では発汗による脱水に注意し、ウォームアップ中から水分補給を行う。
ウォームアップは「個別化」できる
選手ごとに、身体の硬い部位、眠りやすい筋群、ウォームアップに必要な時間は異なる。
股関節が硬い選手はMフェーズに股関節モビリティを多めに。殿筋が使えていない選手はAフェーズでの活性化を厚めに。神経系の立ち上がりが遅い選手はPフェーズの段数を増やす。
チーム全体での共通ウォームアップ(R・A・M)+個別の調整(M・Pの一部)というハイブリッド構成が、チームスポーツでは現実的だ。
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