握力・等尺性中殿筋テストで何がわかるか|簡便な筋力スクリーニング

握力・等尺性中殿筋テストで何がわかるか|簡便な筋力スクリーニング

CMJやスプリント、CODテストは有用だが、ジャンプマットやフォトセルといった機材と、ある程度の実施スペースを要求する。選手数が多いチームや、測定に割ける時間が限られる現場では、毎回すべての選手にフルセットのテストを回すのは現実的でないことも多い。

握力測定と、ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使った等尺性の中殿筋(股関節外転筋)テストは、この隙間を埋める。どちらも1人あたり数分、機材もダイナモメーター1台で完結する。この記事では、この2つの簡便なテストで何がわかり、何がわからないのかを整理する。

なぜ「簡便な筋力スクリーニング」が要るのか

フィジカル測定の目的は、大きく分けると「パフォーマンスに直結する能力を見る」ことと、「選手のコンディションや状態の変化を継続的に捉える」ことの2つがある。CMJやスプリントは前者の色が強く、競技力そのものに近い指標を測る一方、実施と分析にそれなりの手間がかかる。

握力や等尺性の筋力テストは、競技パフォーマンスを直接測るというより、全身状態のおおまかな把握や、特定部位の左右差・弱点のスクリーニングに向いている。フルセットの測定と組み合わせて使うことで、限られた測定機会をどこに重点配分するかの判断材料になる。

握力測定

何を見る指標か

握力そのものは前腕・手指の筋力を反映する指標だが、スポーツ科学や医学研究では、全身の筋力・筋量のおおまかな代理指標として扱われることがある。特定の競技動作を模した測定ではないため、「握力が強い=競技で有利」と単純に結びつく指標ではない。それでも、機材が簡便で再現性が高く、経時的な変化を追いやすいという実務上の利点から、全身状態の大まかなスクリーニングや、リハビリ・復帰過程での全身の筋力低下の把握に使われている。

測定方法

標準的には、握力計(JamarタイプやSmedleyタイプのハンドダイナモメーター)を用いる。

1. 姿勢:座位、肩は自然に下げ内転・回旋なし、肘は90度屈曲、前腕・手首は中間位(回内・回外なし)にする。立位で測る流派もあるが、チーム内では姿勢を統一することが重要。

2. 握り方:ダイナモメーターのグリップ幅を手の大きさに合わせて調整する。

3. 試技:最大努力で2〜3秒握らせ、最大値を記録する。左右とも測定し、それぞれ2〜3回計測してベスト値を採用する。

4. 休息:左右・試技の間に十分な休息を挟み、疲労の影響を減らす。

結果の見方

  • 左右差:利き手・非利き手で多少の差が出るのは自然だが、普段の差から大きく外れる変化が出た場合は、負傷や過用の兆候を疑う材料になる。
  • 経時変化:同一選手を同一条件で継続測定し、シーズンを通じた推移を見る。大きな低下が続く場合は、全身疲労やオーバートレーニングの兆候の一つとして、他の指標と合わせて確認する。
  • 機種をそろえる:ダイナモメーターの種類(Jamar・Smedleyなど)によって数値の出方が異なるため、途中で機材を変えると経時比較の意味が薄れる。

等尺性中殿筋(股関節外転筋)テスト

何を見る指標か

中殿筋を中心とする股関節外転筋群は、片脚での立位や着地の際に骨盤を横から支える役割を担う。この筋群の筋力低下や左右差は、片脚での着地・方向転換を繰り返す競技動作の負担につながりうるとされ、下肢のコンディションを見るスクリーニング項目として現場で使われている。あくまでスクリーニングであり、この数値単独で怪我のリスクを診断できるものではない点には注意が要る。

測定方法(ハンドヘルドダイナモメーターを使う場合)

1. 姿勢:側臥位(横向き)で、測定する脚を上にする。股関節は中間位〜軽度伸展、膝は伸展位に保つ。骨盤が前後に回旋しないよう固定する。

2. ダイナモメーターの当て方:大腿外側、膝関節よりやや近位(多くの場合、大転子と膝関節の中間あたり)に当てる。当てる位置がずれるとモーメントアームが変わり、数値が変動するため、毎回同じ位置に当てる。

3. 測定方式:大きく2通りある。

  • メイクテスト:測定者がダイナモメーターを固定し、選手が最大努力で押し込む。
  • ブレイクテスト:選手が保持した肢位を、測定者が徐々に力を加えて崩す。選手の等尺性の最大努力に対し、測定者側の力が上回った時点の値を記録する。

ブレイクテストは測定者の体格・力に結果が左右されやすいため、同じ選手を継続して測るなら、同じ測定者が同じ方式で測ることを徹底したい。

4. 保持時間と試技数:3〜5秒程度の最大努力を2〜3回行い、ベスト値を採用する。

結果の見方

  • 体重で正規化する:絶対値(N・kgf)だけでなく、体重で割った値(N/kg)で比較すると、体格の異なる選手間や、同一選手の体重変動をまたいだ比較がしやすくなる。
  • 左右差:左右の値を比較し、大きな差がある場合は、その脚を重点的に見ていく材料にする。片脚のみの負傷歴がある選手では特に有用な視点になる。
  • 経時変化:復帰過程やオフシーズンでの底上げが計画どおり進んでいるかを、継続測定で確認する。

測定を標準化する

簡便なテストほど、条件のわずかな違いが数値に出やすい。継続比較のために、以下をそろえる。

  • 姿勢と関節角度:肘・肩・股関節・膝の角度を毎回同じにする。
  • ダイナモメーターを当てる位置:特に等尺性の股関節外転テストは、当てる位置のわずかなずれがモーメントアームを変え、数値に直結する。
  • 測定者:特にブレイクテストは測定者が変わると数値の基準が変わりうる。可能な限り同じ測定者が担当する。
  • 試技数と休息:毎回同じ回数・同じ休息時間で統一する。
  • 測定タイミング:ウォームアップ直後か、練習後かで数値は変わる。同じタイミングで測る。

結果を読むときの注意点

カットオフ値だけで一律に判断しない

「この数値を下回ったら危険」といった一律の基準値は、対象や測定条件によって研究間でもばらつきがあり、そのままチームの選手に当てはめられるとは限らない。数値はその選手自身の推移や左右差を見る材料として使い、一度の測定値だけで怪我のリスクを断定しないことが要る。

競技パフォーマンスの直接指標ではない

握力も股関節外転筋力も、競技動作そのものを模した測定ではない。CMJやスプリント、CODテストのような競技特異的な指標と役割が異なることを踏まえ、「全身状態や左右差の簡易チェック」として位置づけ、過大評価しない。

記録を残し、他の指標と合わせて見る

単発の測定では判断材料として弱い。測定日・条件(姿勢・機材・測定者)をそろえて継続記録し、CMJやセッションRPEなど他のモニタリング指標と合わせて見ることで、初めて選手の状態変化を捉える材料として機能する。

まとめ

  • 握力と等尺性の中殿筋(股関節外転筋)テストは、機材と時間が限られる現場でも回せる簡便な筋力スクリーニングである
  • 握力は全身状態のおおまかな代理指標、中殿筋テストは片脚支持に関わる下肢の筋力・左右差を見る指標として使う
  • 姿勢・当てる位置・測定者・試技数をそろえて継続測定することで、経時変化と左右差が意味を持つ
  • カットオフ値だけで診断せず、その選手自身の推移として、他の指標と合わせて読む

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